7 29, 2014

FullCircleプロジェクト

Room #7 Make a difference 南米でコミュニティサービスに従事するスキー仲間 by 稲葉直幸 photo: FullCircle Project 大会や撮影で南米に渡るプロスキーヤーは多いが、ボランティア活動が目的の者はあまりいない。スーパーパイプのコンテストで競技生活を送っていたマット・フィリッピは、ストックの代わりにのこぎりや鋤を手にアンデスで3シーズン過ごした変わり種だ。 2010年、マットのアスリート人生が一変したのは前年に受けた靭帯の再建手術よりも、2月27日チリ中部沿岸を襲ったマグニチュード8.8の大地震だった。多くの家屋が破壊した地区に住む友人からその惨状を電話で聞かされたマットは支援を思い立つ。震災から復興を目指す人々が怪我から復帰を目指す自分の境遇に重なって見えた。 大会のために世界中をまわるマットの生活は充実していたが、現地の社会や人との繋がりに欠ける旅には物足りなさをおぼえていた。チリの大地震はプロスキーヤーとしての足元をはるか遠くから揺さぶった。 かつて訪れた地にプロスキーヤーとして何かできることはないか。社会奉仕とスキーをテーマにショートドキュメンタリーを撮るアイディアが生まれ、友人のアスリートやフォトグラファー、フィルマー、ミュージシャンをメンバーにFullCircleプロジェクトが結成された。 2010年8月、仮設住宅の建設事業に取り組む現地NGOの協力のもと、チリ・コンセプシオン郊外のラス・セリナスで倒壊した幼稚園の再建に従事する。 The FullCircle Project: Ep.1 "El Inicio" 慣れない大工道具を使って遊具づくりに精を出した9日間のボランティア活動を終えると、近隣のスキー場ネバドス・デ・チジャン(Nevados De Chillán)へと向かった。温泉保養地でもあるチリ有数のリゾートだが、震災の影響で客足が遠のいていた。 The FullCircle Project: Ep.3 "La Ola" コミュニティサービスとフィルミングの両立はFullCircleプロジェクトのコアをなす。「スキーに必要なのはリフトやスロープ、山だけじゃない。コミュニティをつくる人たちがいてスキーは成り立つ」(Powder)からだ。 後日、傷だらけになった手指の成果が地元のニュース番組で取り上げられた。真新しい幼稚園に通う子どもたちの表情が次のプロジェクトに駆り立てる。メンバー個々の経験をコミュニティに還元することを通じて共感や貢献、人との繋がりの種を蒔くことがFullCircleプロジェクトのミッションとなった。 翌年2011年の夏はペルーの高地で果樹園づくりに着手。近年送水路が整備され、大規模な農園開発が可能になった村マラス。それまでトラックで水や果物を運んでいた土地で自給自足の生活を目指し、住民の発案でりんごの樹の苗を植樹した。同じような環境にある近隣の地域社会の成功例となることが期待されている。 Episode 1 - The Arrival Episode 2 - Digging Deeper Episode 3 - Rooted 2012年はペルー・アンデス山中の村アマルでゴミのリサイクル施設を建設。標高3,600mの高地で2週間の肉体労働と寄付金3,000ドルの成果は、急斜面の痩せた土地で伝統的な農業を営むインカ帝国の末裔200世帯の村の環境改善に役立てられた。 Episode 1 - Pacha Mama Episode 2 - The Ceremony Episode 3 - Muyu Juntas'qa FullCircleプロジェクトの活動はウェビソードの形で公開されている。スキーと南米カルチャーをミックスしたショートドキュメンタリーで、楽曲もメンバーのミュージシャンが自宅の寝室で録音した。ボランティア活動の後ではスキーの撮影に2週間ほどの短い時間しか費やせなかったが、スキーや作品づくりの視野が拡がったという。 FullCircleプロジェクトでの経験はアマルの人が言うところの母なる大地とつながることだとマットはいう。農薬や化学肥料を使わず過酷な環境で作物を育ててきた村人のように、スキーヤーも雪山で自然の声に耳を傾けることで生き延びることができると。持続的な農業のためにリサイクル施設をつくったマットたちだが、与えるよりも得るものの方が大きかったようだ。 現在FullCircleプロジェクトは活動を中止している。南米で過ごした3シーズンは何も実を結ばなかったのか。個人的にはそう思わない。彼らが蒔いた種はやがて収穫の時期を迎え自分たちのもとに返ってくるだろう。 北半球の冬が終わり、南半球に冬がくる。スキーヤーと社会をつなげたFu… Read more