7 29, 2014

Go South

Room #7 Intro 熱狂大陸 by 稲葉直幸 photo: SASS Global Travel エアコンの室外機が唸りを上げる。雑音を追い払おうと雪山へ思いをはせる。どこまでも青い空とそこなしの深い雪。首すじをなでる冷気。ドロップポイントの緊張感。おかえりなさい冬。 なれどもアスファルトの熱風を浴びたとたん、脳内避暑地はたちまち霧散する。いっときの現実逃避はなんの慰みにもならない。 次の冬は遠いが赤道を越えればそこは冬のまっただ中。とりわけ南米の冬は熱い。サッカーW杯の熱狂も記憶に新しいところ。スタジアムが静まり返った今、南米の熱に罹ったスキーヤーの歓声がアンデスから上がり始めている。 南米のスキー場は広大な大陸に点在し、気象条件に大きく左右される。物理的にも気持ちの上でも新雪にたどりつくまでが遠い。行き先の選定からパンツの枚数まで入念な計画が必要になる。 そこで最初の一歩を踏み出すために基本的な南米スキートリップのポイントやスキー場の特徴をまとめた。地球の裏側まで気が遠くなる距離が少し縮まるはずだ。 南米の滑り方 8月がベストタイミング 南米に限らず新雪を滑るには時期が重要なのは言うまでもない。ただし南半球の季節の移り変わりは北半球のリズムと少し違う。大雑把にたとえると、南半球の7月は北半球の12月、8月は2月に、9月は4月に相当する。 軽いパウダー狙いなら7月だが雪不足のリスクがある。9月に入ると春スキーのコンディションが増え始める。一般的には8月がベスト。 なお7月中旬から終わりにかけて、南米の国は冬休みにはいる。スキー場に人が増え、ホテルのパッケージ料金も高くなる。 短期滞在にはフリーライドキャンプがおすすめ 滞在期間が増えれば良い雪に巡りあう機会も増える。しかし社会人なら移動時間をのぞけば1週間が限度だろう。短期間で効率良く滑るためにパックツアーに参加するのもいいが、滑り重視のスキーヤーには物足りない。案内するエリアもインバウンドがメインとなる。 徹底的に滑り込んでスキルを上げたい方には、フリーライドキャンプがおすすめ。専任のガイドやコーチと一緒にバックカントリーに出れば新雪オッズも高くなる。1週間単位のセッション形式のキャンプなら日程を組みやすい。各キャンプの特徴は別記事「南米フリーライドキャンプ2014」にまとめた。 チリvs.アルゼンチン 南米大陸には40ほどのスキー場があるとされるが、その多くはチリとアルゼンチンで占められる。スキー場の特徴は国別よりも緯度に影響される。 それぞれ利点と欠点があるが、大別するとチリのメジャーリゾートは首都サンティアゴ周辺に集まり、アクセスが容易。地形はそれほどスティープではない傾向にある。 一方アルゼンチンでは移動に時間がかかるが、ビッグマウンテンラインが待っている。ただし気象条件によって天国にも地獄にもなる。 別記事で代表的なスキー場の特色をまとめた。スキー場の個性を把握した上で、滞在時間に応じてアクセスの難度を考慮すると計画を立てやすい。 アルゼンチンのデフォルト危機 南米で一番ヤバいスキー場を問われたらアルゼンチンのラス・レーニャスを上げる人は多い。「南米のシャモニー」と呼ばれることもある南米フリーライドの聖地だ。 タイトなスケジュールしか組めないならラス・レーニャス一択もありだが、今年のアルゼンチンの夏はリスクが高い。債務不履行(デフォルト)の危機が7月30日に迫っているからだ。 デフォルトに陥れば、ペソ急落など経済的な混乱が予想される。現地の旅行者にも影響を及ぼすだろう。 7月下旬の時点ではデフォルトの可能が高いと憶測される。アルゼンチンに渡るなら情勢を見守りながらプランを練りたい。 稲葉 直幸/medium@Naoyuki_Inaba 梅雨明けに大型荷物が突然届いてびっくり。一ヶ月前に予約オーダーした板だった。発送メールくらい送ってよ。新手の詐欺かとびびった。箱を持って二度びっくり。軽っ!次号#8で記事にするよ〜 WHITE ROOMのテキストは クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。   Room #7 コンテンツ一覧… Read more

3 26, 2014

Room #4 Intro 雪崩事故を語るということ by 稲葉 直幸 「愚かしさは、ぼくたちが過去をふりかえったときにもっとも目につきやすいふたつのことの片割れでもある。もうひとつは、逃したチャンスだ」スティーブン・キング『11/22/63』 今号の特集記事には雪崩から生還したスキーヤーのロングインタビューを2本掲載しました。「グリズリー・ガウチ・アバランチ!」は写真撮影の最中に起きた米国アルタの事故、「リアル・ディール」は弟が兄を救助した米国イーストヴェイルの事故です。どちらも昨年12月滑走者自らがトリガーとなり埋没しました。 両者ともインシデント自体は典型的といえますが大きな話題となりました。グリズリー・ガウチではエアバッグユーザーが完全埋没したことでエアバッグの有効性に一石を投じたからです(WHITE ROOM #3「なぜ彼女は完全埋没したのか?」でも取り上げました)。イーストヴェイルの事故では雪崩発生直後から救助までをリアルタイムに記録したPOVがYouTubeで公開され、事故現場の生々しい臨場感が日常に侵食しました。 話題性とは別に2つの事故にはいくつかの共通点があります。スキー場近くのバックカントリーで起きたこと。経験豊富なローカルのメンバーがいたこと。事故直前まで最上の時間を過ごしていたこと。そして、自分の身に起きたことをウェブで共有したことです(「Blind Spot」「East Vail Slide 12/22/13」)。 雪崩事故の体験を語ることや綴ることは、ある面では自分の犯した愚かな失敗を告白することです。公の場であれば少なからぬ恥ずかしさを覚えます。ウェブのような匿名性の高い空間では、見知らぬ他人からの手厳しい意見や誹謗中傷が待っています。 「もし他人がこの雪崩事故を起こしたなら、レポートを読んだ私はこう思うにきまってる。『バッカじゃない』」エイミー・エンゲルブレットソン「Blind Spot」 メディアのインタビューに応じることは、ともすると恥の上塗りになりかねません。彼らは勇気があるから自分の意見を言えたのでしょうか。あるいはどのようなインセンティブが働いたのでしょうか。答えはインタビューの中にあります。 ですが、本当に重要なのは個人に還元される性質や動機ではありません。今号「侮辱の連鎖」の中でブルース・トレンパー(ユタ州雪崩センター所長)が指摘するように、当事者が率直に語れる環境を整えることにあります。 彼らのリアルな声を聞き過去の事故から学ぶことが必要とされるのは、私たちも当事者になるかもしれないからです。千載一遇のチャンスとばかり目の前のパウダーに心が奪われ、両手で顔を覆いたくなるほど恥ずかしいミスをして。 稲葉 直幸/medium@Naoyuki_Inaba 今シーズンの恥ずかしい思い出。フラット林道をかっ飛ばしてたら雪で隠れたヤブにスキーを引っかけて左膝を捻挫。年末年始の新雪デイをちんたら滑る羽目になる。 ILLUSTRATION BY Nemo WHITE ROOMのテキストは クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。   Room #4 コンテンツ一覧… Read more

12 30, 2013

新三種の神器

Room #3 Intro by 稲葉直幸 セルフレスキューを再定義する新しいテクノロジー「雪崩エアバッグ」 11月23日に発生した立山・真砂岳の雪崩事故でスキーヤー7人の命が奪われました。雪崩に巻き込まれた全員が亡くなるという痛ましい事実に直面して、こう思った方は少なくないでしょう。「もし雪崩エアバッグがあったら助かっていただろうか」。あるいは、巨大な雪煙を巻き上げ雷鳥沢のキャンプ場に迫る映像を見て「たとえ雪崩エアバッグがあっても助からないだろう」。どれだけ事故を検証しても、残念ながら答えは想像の域を出ることはありません。 90年代後半、雪崩ビーコンやシャベル、プローブの3点をセルフレスキューの「三種の神器」と呼ぶことがありました。この分かりやすいネーミングはビーコンの普及に一役買いました。もちろん今日ではビーコンを「神器」と考えるナイーブな人はいません。しかし雪崩に対するリスク意識が低かった当時、ビーコンを身に付ければ安全安心という考えや風潮がありました。 今日では、雪崩エアバッグがビーコンに変わる新たなテクノロジーとして注目を集めています。実際、エアバッグはビーコン以上に多くの命を救います。それもビーコンを使ったレスキューの概念を根本から変える力をもっています。 エアバッグ”フロート”のメーカーBCAはビーコンやシャベルを使ったレスキューを「コンパニオン(仲間)レスキュー」と呼び、エアバッグの着用こそが「セルフレスキュー」だと再定義しています(*1)。ビーコン探索や掘り出しを必要とする救助活動は仲間のスキルや経験に100パーセント依存します。一方エアバッグは埋没そのものを防ぐことを目的としている点が革新的で、文字通り「自分自身」で生存率を高めることができるからです。だからといって、ビーコン同様に過信しては「三種の神器」のラベルの張替えに終わってしまいます。 エアバッグの可能性について私たちにできることは、エアバッグの実態を正しく捉えることです。今号では、エアバッグの基本的なことから事故事例まで多角的に迫ってみました。生存率に関して先に結論を述べれば、最悪のシナリオ(複数人が埋没するような雪崩事故)でのエアバッグ着用者の生存率は非着用者の約2倍(*2)と推定されます。この数字をどう考えるかはみなさん次第です。そのための材料を提供できればと思います。「もしエアバッグがあったら、、、」と考えるよりも、得られるものは大きでしょう。 「雪崩で死にたくないならエアバッグを買ったほうがいい」と言うことは簡単です。でも、いちばん大事なのはエアバッグを使う側の人間です。エアバッグを新たな「神器」と奉ることなく、私たちはエアバッグと適度な距離感をもって付き合っていくことが求められます。新しいテクノロジーを神格化するのは、いつだって人間の都合ですから。 *1:ISSW 2012: Human factors, communication and the future of snow safety *2:本号「新セルフレスキュー?」 稲葉直幸 エアバッグの重さが気になる年齢になったものの、エアバッグ依存症から抜け出せないこの頃。 スキーヤー的に今年度のベスト映画は「ゼロ・グラビティ」。刹那の無重力を体感する術をもつスキーヤーなら必見!酸欠状態でエアロックに飛び込み、息苦しさから解放される主人公。 雪山でも絶対に味わいたくない瞬間をエア残量100%の状態で体験し、エアバッグ依存症を克服する決意をする。 WHITE ROOMのテキストは クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。  … Read more