11 19, 2013

俺たちの『McConkey』!

Room #2

Movie

14の未公開エピソードでたどるシェーン・マッコンキーの素顔と足跡

by 稲葉直幸

10月5日シェーンのホームグランド、スコーバレーのK-22リフト乗り場で開催された『McConkey』プレミア上映会 /写真:Red Bull Content Pool

『McConkey』予告編



多才の人シェーン・マッコンキー。現在のフリースキーシーンの原型をつくったスキーヤー。ロッカースキーを生んだイノベーター。スキーヤーのエゴを嘲笑ったコメディアン。スキーベースジャンプを始めたパイオニア。水上スキーでアラスカの急斜面をスライドで滑りきった変人。

みんなに愛されたシェーンの全生涯(文字どおり1969年の誕生から2006年3月26日のラストジャンプまで)を膨大な記録映像と関係者の証言を交えて描くドキュメンタリー『McConkey』が2年以上の制作期間を経て、ついに今秋封切られました。スキーヤーとしてのシェーンだけでなく、ひとりの人間としてシェーンを知ることのできる物語です。また、フリースキーイングの歴史と文脈を理解する上でのアーカイブとして、すべてのフリースキーヤー必見の作品です。

シェーンの大親友で製作陣にも名を連ねるスコット・ガフニーによると、個人鑑賞用に8時間バージョンを作れるほど豊富な映像素材があり、泣く泣くカットして110分に収めたとのことです。本編から外れた映像は2つのシリーズにまとめられ、ウェブで公開されています(DVDの特典映像にも収められています)。そこで今回、全話鑑賞用にリンクをまとめました。(注:視聴にはインターネット接続が必要です)

どのエピソードも短い時間の中でシェーンの魅力や功績を凝縮して伝えており、単体でも完成度の高い作品になっています。ですが、『McConkey』の素晴らしさはまた別のところにあると思われます。

イントロから始まる死の暗示。これが本編の通奏低音にあり、観るものにある種のプレッシャーを与えるのです。アルペンレースと大学からドロップアウトし目標を見失った若者の成長、スキーベースジャンプへの挑戦、家族との愛情が時間軸に沿って丁寧に描かれる『McConkey』の物語に入り込むほど、最後の舞台イタリア・ドロミテの巨大な岩壁の存在が重くのしかかります。何度も停止ボタンを押そうかと思うほどの緊張感があり、目の前のシーン全てが楽しくも切なくも感じる、そんなアンビバレンツな感情に翻弄される2時間です。この体験は細切れの未公開映像集には絶対にないものです。ぜひ本編をご覧になっていただきたいと思います。

1. Scott Gaffney: Making Pictures and Memories with Shane

スコット・ガフニー:撮影中のシェーンとの思い出
2人のキャリアを振り返りながら、フィルマーとアスリートの信頼関係を”真剣”に語るガフニー。「シェーンの滑走力を信じることができるからこそ、際どい滑降ラインでもレンズの後から指示を出せる」
イントロのギャグで2人の間柄も分かりますね。
ガフニー:「邪魔だ。どけ、このエクストリーム野郎」
シェーン:「何するんだよぉ〜オイラの膝はボロボロなんだよぉ〜ガフニぃ〜。痛ぃよぉ〜」

2. JT Holmes: Shane’s Protégé to Partner in Crime

JTホームズ:シェーンの秘蔵っ子から悪友へ
今ではハリウッドからもスタントのオファー(*1)が来るベースジャンプとウイングスーツの腕前をもつプロスキーヤーのJT。最初のジャンプはシェーンの影響と指導で始めたものでした。「シェーンと初めて会ったのは14才のころ。相手はプロスキーヤー。… はじめは師として教わり、いつしか友達となり、最後は最高の友達だった」。そして、シェーンの最後のジャンプ直前にジャンプをしたのもJT。
「シェーンは才能と工夫でアイディアをとことん追求して、多くのことを短い生涯でやり遂げた。…『McConkey』の内容は単純でない。観客はシェーンのように、いろんな角度から物事を解釈することになると思うよ」

[*1:『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011)、『ハングオーバー!!!』(2013)]

3. The Woman Who Stole Shane McConkey’s Heart

シェーン・マッコンキーのハートを盗んだ女性
シェーンの運命の人であり、冒険と人生のパートナーとしてシェーンを愛で支えたシェリー・マッコンキー。「一言でいえば、面白おかしな人。それがシェーン。いつも笑っていて、やさしくて、繊細だったわ」
現在、非営利団体シェーン・マッコンキー基金の理事長としてシェーンの遺志を後世に伝えるかたわら、7歳児の子育てに追われる毎日。
『McConkey』の収益はマッコンキー家のトラスト(信託)にあてられます。

参考記事:007夫婦劇場:私のハートを盗んだスキーヤー

4. The Cult Phenomenon that is Saucerboy

ソーサーボーイというカルト現象
いつもプロスキーヤーからうとまれ、のけ者にされるソーサーボーイ。ムカつくけど、どこか憎めない。この愛すべきキャラクターは1997年春、撮影中の怪我でシーズンが終わったシェーンと撮影クルーによって、アラスカの駐車場で即興的に創作されました。
真面目ぶったプロスキーヤーやメディア用語の「エクストリーム」や「ビッグマウンテン」を嘲るソーサーボーイ。「オレは相棒の(プラスチック製)ソーサーで氷の山を登ることだってできるんだぜ」。つまり、お前のピッケルはお飾りなんじゃないの?という具合に。スキー業界やシェーンを含むプロスキーヤーにツッコミを入れるソーサーボーイは、フリースキーシーンを相対化する道化師であり、シェーンの心の内を代弁する分身なのです。
シェーンの遺作『Claim』(2008)では、度重なる怪我と年かさで肉体的に衰えのきたシェーンを奮い立たせる役回りで久々に登場します。「俺はまだ終わっちゃいない」と自分に言い聞かせるシェーンに囁くソーサーボーイ。「You can do it, Shane.」。シェーンに自分の身を重ね、励まされたと感じたスキーヤーも多かったと思います。
体はボロボロでも、ソーサーボーイの姿を借りたシェーンは生き生きとしていました。最後ソーサーボーイはガッツポーズをして忽然と消えます。以来、現れていません。「Just ski down there and jump off of something, for crying out loud!」とクレイムするシェーンの再起を見届けて成仏、じゃなく役目を終えたのでしょう。

参考記事:みんな大好きソーサーボーイ!

5. Wingsuit - 30 Seconds of Shane

30 Seconds of Shane:ウイングスーツ
鳥のように大空を舞いたい。子ども時代、そんな空想を抱いたことは誰でもあるでしょう。ある者はパイロットになって夢を叶える。ある者はフライトシュミレーションに興じる。ある者は翼を手に入れる。
「大地を離れて、落下5秒後には完全な滑空状態に入る。機械じかけでも、テレビゲームでもない。自分の体だけで飛んでいるんだ。まさに夢のような体験。言葉では言い表せない感覚に満ちている」- シェーン・マッコンキー

6. Changing the Sport of BASE Jumping - 30 Seconds of Shane

30 Seconds of Shane:ベースジャンプを変えた男
ゲリラ的なベースジャンプを敢行した故フランク・ギャンバリーに師事し、キャリア前半期にベースジャンプの腕を磨いたシェーン。『Focused』('03)では、ベースジャンプとスキーと組み合わせたスキーベースジャンプへと発展します。テクニカルなラインを滑りきった後に待ち構える断崖絶壁から大ジャンプし、パラシュートでランディング。普通では滑走不可能なラインから次々と飛び降りました。フランス・アイガーの岩壁から虚空へ吸い込まれるダブルフロントフリップはスキー史上最も美しいスキーシークエンスのひとつでしょう(『YEARBOOK』'04)。
次はウイングスーツを使ったスキーベースジャンプへステップアップし、新しい地平を開きます。ジャンプ後、スキーをブーツから切り離し(ヒールピースを押し上げて開放する機構をもつ特殊な旧式ビンディングを使ったギミック)、ウイングスーツで滑空する最も革新的なスタイルです。ベースジャンプから着実にレベルを上げてきたシェーンにとって当然行きつく形でしたが、結果的に命を落とすことになりました。
物事を発展させることには常にリスクがともないます。スキーでは、その帰結が死の場合もあります。シェーンはベースジャンプを大きく発展させましたが、代償は大きいものでした。しかし、それ以上に大きなものを遺したことも事実です。

7. Shane McConkey, the Ultimate Prankster - 30 seconds of Shane

30 Seconds of Shane:永遠の悪ガキ
「15の少年のまま大人になったのがシェーン」。いつも人を笑わせたり楽しませることに余念がなく、いたずらは最も得意とするところです。たとえ病室であっても。
医療用ビニール手袋で体をはったいたずらの後、「どう気分、良くなった?」と一瞬、真顔を見せるシェーン。真剣勝負の笑いは最良の薬です。

8. Snow Ski Domination - 30 seconds of Shane

30 seconds of Shane:スノースポーツ界を席巻した男
モーグルチャンピオン、Freeskiing World Tourチャンピオン、X-Gamesメダリスト。レースバーンからコブ、スキークロス、パーク、ビッグマウンテンまで様々なコンテストで活躍したシェーンの軌跡は、そのままフリースキーイングの発展の歴史とも重なります。
うがった見方をすれば、シェーンが異なるフィールドでトップに立てたのは、当時どのフィールドも未成熟だったからといえます(その分、粗雑で猥雑な楽しさがありました)。言いかえれば、トッププロでも十分な報酬が得られない環境でした。「あるとき、シェーンにどうやって稼いでいるのか尋ねたら、『そこらのプロスキーヤーと一緒にすんなよ。オイラはロックスターなんだぜ』って大真面目で言うだろ。あれはキモかった〜。…でも、どんな分野でも誰よりも強かったことは本当なんだよな」- JTホームズ)

9. Shane Mcconkey's Family Life - 30 Seconds of Shane

30 Seconds of Shane:父親の顔
第一子が期待した男児でなく女児だったことに、「すごくほっとしたよ。娘で良かった。(自分のように)父親と同じ道を歩むことはないから」とシェリーに心の裡を打ち明けたシェーン。その幼子を残して逝った父。身勝手で無責任。だけど、、、。

10. What would you do with 30 days to live? - 30 Seconds of Shane

30 Seconds of Shane:人生最後の30日間の過ごし方
中学2年のマッコンキー少年が書いた宿題の作文を見つけて、珍しく照れながらカメラの前で読み上げるシェーン。課題は、人生最後の30日間の過ごし方。
「まずはスカイダイビングを教えてくれる人を見つけることから始めます。2,3回スカイダイビングに挑戦したら、次はヨーロッパ。ヘリコプターに乗り、険しい山のてっぺんまで飛んだら、腰まで埋まるくらいのパウダーを滑ります。10mのクリフがたくさんあって、ふかふかの雪の中に思い切ってジャンプ。次の場所は、ハワイのような暖かいところで、崖から海に飛び込んでシュノーケリングかな。ハンググライダーで飛び続けるのもいいな。今は思いつきませんが、他にもやってみたいことはたくさんあると思います。最後の瞬間まで、楽しいことをやり続けます」。続いて、「先生の手書きのコメントはこう記されている。『どれも楽しそうだ。でも、僕ら教師は何ひとつ君の役に立てそうもないな』。、、、傑作だな」


ICONSシリーズ

各界のアスリートとスキー界のレジェンドが語るシェーンの影響力

11. ICONS: Travis Rice on Shane McConkey

ICONS: トラビス・ライス
ジャンルの垣根を越えた先行者の存在とその責任感。水上スキーを使ったシェーンの伝説のAKスライドの映像をバックに、Lib TechのBANANA HAMMOCK(リバースアウトラインの新雪用ボード)を初めてアラスカの急斜面に持ち込んだときの思い出から言葉を引き出すトップスノーボーダー。「シェーンのようにビジョンを持つ者の気持ちはよく分かる。かつて自分も同じようなポジションにいた。何かが違うと感じ、どう変えたら良いかも分かってる。自分に影響力があるなら、その力を行使すること。シェーンの存在がそう教えてくれる」

12. ICONS: Bob Burnquist on Shane McConkey

ICONS:ボブ・バーンクイスト
スカイダイビングの思い出を通じてシェーンの遺産を語るプロスケーターのボブ・バーンクイスト。「『シェーンはミスを犯して死んだ。賞賛などお門違いだ』そういう声も聞く。それ対して、僕はこう思っている。ある意味では、シェーンは生きていると。壁にぶつかっても前進するシェーンの意思や情熱は、スキーに限ったことではない。あらゆるところで生きづいている。ひとつの場所にとどまらず、好奇心のおもむくまま、いろんなことに挑戦したからだ。その軌跡を通じて僕らはシェーンとつながる。彼の気力、モチベーション、献身は僕らの力になる。行き詰まったときはいつも、ブレイクスルーや奇跡を起したシェーンの存在に勇気づけられてきた。みんなでシェーンの人生を祝福しよう」

13. ICONS: Scot Schmidt on Shane McConkey

ICONS:スコット・シュミット
シェーンの憧れの”レーサー”スコット・シュミット曰く、「K2ポンツーンを最初に見たとき、失敗作だと思った」
”エクストリーム”現象の代名詞的なクラシックムービー『The Blizzard of Aahhh's』('88)で、スキーレースから身を引いたシェーンに新しい世界を開かせたシュミット。十数年後シェーンが開発したリバースキャンバーのポンツーン(160-130-120)は、200cmオーバーのGSスキーが超急斜面やパウダーのスタンダードだった時代のシュミットに新しい扉を開かせます。
”エクストリーム””ビッグマウンテン”と時代によって呼び名は変わっても、フリースキーやパウダーの魅力は普遍的です。だからこそ、こうしたエピソードが生まれるのでしょう。

参考記事:<The Original Freeskier> 50歳になったスコット・シュミット

14. ICONS: Jonny Moseley on Shane McConkey

ICONS:ジョニー・モズレー
不幸にもフリースキーヤーのステレオタイプにされたモズレーが語るシェーン・マッコンキーという型破りなスキーヤーの存在。「五輪で金メダルを獲った者の言葉として聞いてくれ。シェーンこそ最高のスキーヤーだ」

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
WHITE ROOMのテキストは クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。

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Author: Naoyuki Inaba
URL: http://whiteroomski.com/articles/mcconkey-edits
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