11 01, 2013

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Room #0
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The Catalyst For Your Skiing

スパチュラ誕生から10年、シェーン・マッコンキーが果たした役割とは

By 稲葉直幸

WHITE ROOMはフリースキーをテーマにした電子書籍です。月1回の発行ペースで、主に海外のフリースキーにまつわるストーリーをお届けする予定です。iPhoneまたはiPadをお持ちの方はアプリをダウンロード後、トップメニューから定期購読されますと、新しい号が自動的にダウンロードできます。購読は無料ですので、ぜひ登録してください。

WHITE ROOMはカタチとしては電子書籍ですが、カタリストでありたいと考えています。カタリストとは触媒を意味します。触媒とは、それ自身は変化しないが、他の物質の化学反応を促したり抑える物質のことです。WHITE ROOMも読者のみなさんにとって触媒のような働きをする場所、ストーリーを読んだ後に心のなかで何か変化を感じられる電子書籍を目指しています。

かつてシェーン・マッコンキーという偉大なスキーヤーがいました。2009年3月、スキーベースジャンプ中の事故で亡くなるまで、フリースキーの世界に大きな影響を与え続けました。(その足跡は今秋リリースのドキュメンタリー『McCONKEY』で、ぜひご覧ください。WHITE ROOM #2「俺たちの『McConkey』!」では『McConkey』の未公開映像を特集しています)

多才なシェーンはスキー開発のイノベーターでもありました。1996年アルゼンチンのラスレニャスのバーで生まれた突飛なアイディアは、2003年ヴォラントから世界初のリバースキャンバーとリバースサイドカットのスパチュラとしてかたちになりました。新雪の上をかつてないほど滑らかにターンができるパウダースキーでした。ただし新雪がないところでは、著しく安定感に欠けました。

同じ頃、ヴォラントはアトミックに買収され、シェーンはK2スキーに移籍します。大きなメーカーにとって、スパチュラのようなゼロサムゲームの板は、商品として魅力がなく、同じコンセプトの後継モデルはつくられませんでした。一方、アトミックもスパチュラに興味を失っていきます。あるクラスタのスキーヤーには熱狂的に迎えられたものの、3年間の総生産数は1,000台ほどでした。リバースキャンバーとリバースサイドカットのコンセプトは、どこのメーカーからも見向きされなくなりました。あまりにも革新的だったのです。

2005年初め、K2は顧客の小売業者とのミーティングを、ウィスラーのヘリスキーで開きました。エスコート役のシェーンは、密かにある手製のスキーを持参します。当時のファットスキーとしては標準的なアパッチ・チーフ(131-98-116)のトップ部に、リベットで固定したワイヤーがビンディングのトゥーピースと結ばれ、トップが強制的に反り上がっていました。ロッカーの原型です。見た目は粗野な改造スキーでしたが、新雪での滑りやすさ、荒れた雪面での走破力に試乗した誰もが驚きました。

これをきっかけに、新しいパウダースキーの開発が始まります。2006年、リバースキャンバーに近いフルロッカーと緩いサイドカーブをあわせ持つポンツーン(160-130-120)が誕生しました。リバースサイドカットにこだわることなく、ロッカーという新しいアイディアを取り入れた結果、「スパチュラより10倍良くなった」とシェーンは、K2 SKEEZE Magazine Vol.3の中で語っています。

ポンツーンの開発を契機に、K2はロッカーのコンセプトを発展させます。現在では、ロッカースキーは新雪を滑るための特殊な形状ではなく、パークスキーからレーシングモデルまであらゆるカテゴリの板に応用され、一般的になりました。今季のカタログを開けば、フリーライドモデルの大部分は各メーカーともロッカーを採用しています。

ロッカーの開発と普及において、シェーンはカタリストになったのです。スパチュラのリバースキャンバーをロッカーへと発展させ、自らのパフォーマンスで経営陣やエンジニアの既成概念を変えました。そして、私たちスキーヤーの滑走スタイルや滑走フィーリングも変わりました。パウダーを高速でスライドできるようになり、重力を自在に操る楽しさはより多くのスキーヤーに開かれています。

シェーンは旧態依然としたスキーの世界を逆転させました。一方、自身はリバースサイドカットのラフスケッチをナプキンに描き、周りのプロスキーヤーに笑われたアルゼンチンの夜から変わっていません。スパチュラの逆クビレにポンツーンの逆ゾリ。空を飛ぶように山や新雪を滑りたい、そのための板をつくり続けました。

WHITE ROOMもスキーヤーのカタリストになりたいと思います。フリースキーの世界にはいろんなストーリーがあふれています。新しいものや未知のことを伝えることで、読者のみなさんの心のなかの何かが変わったり、何かの発見のきっかけになればと思います。

スパチュラが生まれて、ちょうど10年が経ちました。この間、スキーのかたちは発展しつづけ、それまで上級者だけの世界だったパウダーが身近になり、ずっと楽しくなりました。新しい世界を知ることは、スキーライフが白一色だけでなく、彩り豊かになることだと信じています。

WHITE ROOM室長 / 稲葉直幸


everywhere Rocker

今日、多くのメーカーからロッカータイプのスキーが販売されている理由のひとつに、知的財産権のパブリックドメイン(公共財産)化があげられます。

シェーンと共同でスパチュラを開発したエンジニアのピーター・ターナー(現DPS)さんは、特許権の仮保護の書類をシェーンと同僚の3人の連名で、親会社のアトミックに提出しました。ですが、当のアトミックはどういうわけか、特許申請を見送りました。

こうして、降雪の翌日、朝イチのリフト乗り場に様々なフォルムのロッカースキーが並ぶ光景があたり前になりました。この文脈でもシェーンはカタリストだったのです。

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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『McConkey』予告編



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Author: Naoyuki Inaba
URL: http://whiteroomski.com/about
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